パン作り奮闘記第8章

1.永遠の未完成
 パン作りは毎日同じ作業の繰り返しです。なのに毎日同じ物はできません。
 材料、気温や湿度などの条件が違うからです。
 当然、仕込み水の温度や量を変えたり、捏ね方を工夫したりと毎日同じ物ができるように努力はしていました。でも、一年ほど前からあまりしないようにしています。
 というのは、そうすることに意味が無いように感じてきたからです。
 捏ね上げ温度を一定にしたり水分量の調整などはしていますが、その他のことはできるだけしないように心がけるようになりました。
 小麦粉(フランスパン専用粉)のグルテン分はメーカーが発表している数値に調整されて出荷されていると長い間思い込んでいました。ですから捏ねあがった生地がいつも同じにならないのは自分の腕が悪いからだと思いつづけていたのです。
 悪いのは私の腕ではなく、粉のほうだと気づいたのはこの仕事を始めて三年ほど経った頃です。考えつく様々の工夫の末、粉のグルテン分が違うからだという結論に達しました。ロット番号の同じ袋でもかなり違う場合があります。
 ですから、様々の工夫をしてやっとその粉に合った調整を見つけた頃にはその袋はもう無くなり、又次の粉という具合に果てしの無い戦いが続きます。
 そうこうしているうちに、粉にはその粉の味わいがあって無理に調整する必要が無いのではないかと思うようになってきました。
 考えてみれば、小麦粉は工業製品ですが、原料の小麦は農産物です。豊作の年があれば不作の年もあります。同じ畑でも北側と南側とではでき不出来があります。
 それぞれに、それぞれの味わいがあっていいような気がするのです。
 そう思うようになってから、なんとなく優しい味わいのパンになったような気がします。


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